彼

イカレてやがんぜ何もかも
あるべき肉体魂死に様　
急ごしらえの自尊心じゃあ腹の足しにもなりゃしねえ
どうせこの世は調子っぱずれ
そもそも俺ぁ元から音痴だ（言われなくても知ってるってか五月蠅ぇよ）
それでもな、お天道さんにまっつぐ声張れねぇようじゃあ
そこは地獄とおんなじよ
いいか？人間食って糞して寝れりゃあ一人前、立って歩いて笑って歌えりゃ天下取りだ
笑え笑え、ほれ笑え―…

幼

知識の宝庫の愛でる花

母

母よ

胎を痛めず生んだ子らの絶対なる矛にして盾よ

お前たちのなんと憐れな

腕の中の細首に捲きついた肉の鎖が

自らの首にまで絡んでいることにも気づかずに

じわじわと嵩を増す重石に向かって

じりじりと食い込む首枷に酔いながら

うっとりと笑むお前たちの

なんと憐れで美しき

虞

(怖くて)
なにがこわいの

(怖くて)
どうしてこわいの

(仕方ないんだ)
ここにいるのに

声

銃｢声｣とはよく言ったものだと、その女は言った。

たとえば怒りに、たとえば歌に、銃にはきっと｢想い｣があると。

｢マリア｣の声はと尋ねたら、少しの沈黙の後、ぽつり｢悲鳴｣と小さく低く。

神と教会の名を借りた冷たい殺人機は、己のさだめを歎いてか。

いつも躊躇いがちに引き金を引く、あの細い指の心を映してか。

引き金を引く指が俺のものになっても。

罪の子を抱く黒い聖母は、また闇夜に悲鳴をあげる。

祈るように。

足掻くように。